花守 もっと演じたかった、というのが正直な感想です!
千本木 ね~。お話としてもオーディションが終わってこれから文化祭本番というところで終わったので、この続きが見られたらいいなという気持ちです。
花守 でも、それぞれの成長や変化が描かれたという意味では、すごく綺麗な終わり方だなとも感じていて。ある意味、みんながスタートラインに立ったところなので。……でも、やっぱりこの先も演じてみたいです。
千本木 それに、いろいろな場所でいい評判を聞くんです。他の収録現場でも「『かげきしょうじょ!!』、面白いですね」と言っていただくことがたくさんありましたし、ネットの感想でも皆さんが楽しんでくださっているのが伝わってきて……。
花守 「かげきしょうじょ!!」を見て、宝塚に興味を持ったというファンの方もいました。
千本木 とても反響の大きい作品だなと感じていたので、いつかこの先もお届けできたらいいなと思いますし、私も続きを演じてみたいです。
千本木 暁也くんとの会話がすごく共感できました。確かに暁也くんの言う通りなんです。相談してアドバイスをもらうときって、だいたい答えが決まっていることが多いですし、実はあとひと押しがほしいだけ……みたいなことって、私にもあるなって。そういう意味では、さらさはうっすらと覚悟が決まっていたんだと思います。
花守 さらさはまわりからロミオの適性が高いと思われているので、ティボルトを選んで驚かれていましたけど、考えた末に自分の意思でもう一度ティボルトに挑戦するところがさらさらしいなと思いました。その上で、役を演じるということに向き合い、さらに自分の過去とも向き合って、お芝居を掘り下げようとする。それがとても熱かったです。
花守 「能面」とまで言われた愛ちゃんが柔らかい表情でさらさの前に立っていたのが嬉しかったです。もともとトラウマを抱えていた愛ちゃんは、さらさと出会ったことで深い海から陸地へ上げてもらうことができました。過去はまだ消化しきれていないけど、お母さんの言葉を受け止め、ちゃんと自分の言葉に変換して伝えられるようになった。
その姿を見て、やっと人としてさらさの前に立てるようになったんだなって思ったんです。さらさをはじめ100期生のみんなに浮世離れしたところを繋ぎ止めてもらって、少しずつ人に戻っていったのが、全十三幕での変化だったのかなと思います。
花守 もちろん成長もあると思うんです。でも、どんどん表情が柔らかくなって、考え方も声も柔らかくなりましたけど、心配性だったり、考え込んじゃったりするところは変わってないので(笑)。ジュリエットを演じる前のモノローグも、考えがいったり来たりしていましたし。さらさとの出会いを思い出して、なんとかその感情を役に落とし込めましたけど、意図してそうなったわけではないと思うんです。あくまでも役者としての変化、転換点だったのかなと。
千本木 でも、お母さんの言葉やさらさとの出会いをちゃんと自分のものにしていけるのは、成長の片鱗が感じられますよね。
花守 十一幕を経て、愛ちゃんが手に入れたものを全部乗せる気持ちで演じました。最初はぐるぐる考えながら立っているので、音としては綺麗だけど、いまいち身が入っていない状態。そこから最後の最後、「動けば肘が当たるような人の波の中」というセリフから初めて本当の意味でジュリエットと自分を重ねることができる……そんな変化を意識しました。
千本木 映像もすごかったです。愛ちゃん、宇宙にいっちゃうんだって。
花守 宇宙猫(※)ならぬ、宇宙愛ちゃんになってた(笑)。
※真顔の猫と宇宙の背景のコラージュのこと
千本木 現実から離れてしまうぐらい、悩んでしまったんだなって。
花守 だからこそ、愛ちゃんにとっていかにさらさの存在が大きいか伝わってきました。
花守 セリフの熱が全然違っていたので、ここは別にアフレコさせていただいたんです。ジュリエットのセリフは、まだ“型”しか作れていないけれど、きっとこれから心を入れていくことができるだろうという、その片鱗を感じてもらえるようなお芝居を意識しました。
千本木 恐ろしいなぁと思いながら演じていました。
花守 かっこよかったですよ!
千本木 嬉しい~! けど、現時点では最終話の放送前だから、どんな反応をいただけるのか今からドキドキしています(笑)。このシーンはさらさ自身、誰かのコピーではなく暁也くんのことを思い出しながら彼女なりのティボルトを演じているので、私もさらさと同じような気持ちで自分自身のティボルトを演じるようにしました。
花守 私は愛ちゃんと同じ表情で見ていました。完全に乙女の顔(笑)。
千本木 ふふふ(笑)
花守 暁也くんとの関係性もすごくよかったです。お互い、本当に大きな存在なんだなって。
千本木 さらさが自分の中のティボルトを探して、そこに暁也くんがいたのはやっぱりそうだよねって、すごく納得したんです。さらさにとっての暁也くんは役者としてのスタートラインであり、自分にないもの、自分がほしかったものをつかみ取れる人。ひとつ乗り越えなくてはいけない存在なんです。それを“糧”として自分の芝居に生かすところは、さらさも本質的に役者なんだなと思わされました。
花守 逆に言えば、さらさは暁也くんにとってのティボルトでもあるんですよね。
千本木 そうなんです。この二人の関係性が終盤ではっきり見えたんじゃないかなと思います。
千本木 原作を読んだときに、ティボルトを演じるシーンと同じくらい、このシーンにもぞわっとしたんです。喜びもせず、スッと掲示板を見つめる姿がさらさのすべてを物語っているような気がして。考え抜いて役に向き合った結果、役者として何かをつかみ、ひとつ高いところに上ったことが伝わってきました。
花守 何かを考えているというよりも、「ただそこにある」という境地ですよね。愛ちゃんはまだそこに辿り着いていないので、さらさは何を考えているんだろうって思いながら見ている気がします。
千本木 歌舞伎を見て涙を流すシーン(第七幕)もそうですけど、「かげきしょうじょ!!」って、さらさの中で何かがうごめいている様子、気持ちの揺れみたいなものの表現が素晴らしいんです。そこに言葉はいらないんだって思わされますし、言葉にしないことでさらさというキャラクターに深みが出るのがすごいです。
花守 その悔しさこそ、愛ちゃんが得られた大きな経験ですね。太一に愚痴をこぼしますが、「努力しなくちゃ」という思いがちゃんと根付いていて。それがさらさをはじめ仲間からもらった変化の種そのものなんだなと思いました。
……なんとなく、愛ちゃんはこれから先きっと大丈夫なんだろうなという気がします。幼少のときの経験から執着というものを断ってきた彼女が、さらさと出会い、再生して、なくしたものを再構築していく。その先に生まれた悔しさや執着というのは、すごくポジティブなことだと思いますし、十三幕を通してその再構築を描いていただけたのが嬉しかったです。
千本木 最初こそ、さらさきっかけでトップスターを目指すようになりましたけど、最終的に自分の感情……悔しさからもっとうまくなりたいと思えるようになったのがいいですよね。
花守 さらさは大きな存在ですけど、これからは愛ちゃんが自分自身で考えて、模索していくことが増えていくと思いますし、悩んだり、失敗したりしても、ちゃんと自分の言葉で考えていけると思います。
花守 「ロミオとジュリエット」のような舞台を思い浮かべられる歌詞でもあり、愛ちゃんやさらさたちが歩んできた人生の一コマにも重ねられる内容なので、二重に楽しめると思います。個人的には、ロミオとジュリエットの歌詞でもあり、ロミオとティボルトの歌詞でもあるのかなと感じました。
千本木 サビの美しさ、ハーモニーの美しさに鳥肌が立ちました。「星の旅人」ではさらさが主旋律を歌って、愛ちゃんがハーモニーを歌っているんですが、「溢れる想い」はさらさがハーモニーなんです。レコーディングのときも、「愛ちゃんを支えてあげるように、寄り添う感じで歌ってください」とディレクションをいただいて。二人のこれまでとは違った一面が見られると思います。
花守 さらさに支えてもらって、愛ちゃんとして伸び伸び歌えました。
千本木 歌い方も「星の旅人」と少し違っているんです。「星の旅人」は舞台に立つ未来のさらさと愛という感じですが、「溢れる想い」はもう少し今のさらさたちに近い感覚で歌わせていただきました。より、等身大のさらさと愛が感じられると思います。
渡辺さらさ×奈良田 愛「溢れる想い」試聴動画
千本木 そうですね……でも2人はこの歌詞のような“愛”というよりは、かけがえのない親友という感覚のほうが強いかも。
花守 うんうん。お互い惹かれ合うものはありますが、どこかライバルとして思うところもあって、単純な愛ではないと思うんです。いろいろな意味で隣に立てる関係性というか。でも、さらさはまわりの人を「焦がれる者」にする人間なのは間違いないと思います。暁也くんしかり、愛ちゃんしかり。一生ものの感情をまわりの子たちに植え付けていくタイプ(笑)。
千本木 自分で演じているとよくわからないんですけど、離れたところから見ると確かにそうだなって思います。このインタビューでもゆみりちゃんが言ってくれたことで、「さらさってそういう魅力があるかも」って、改めて気づいたところがたくさんありましたし。
花守 まさにお星さまみたいな存在だなって思います。夜になればいつも見えるけど、実は何億光年も先にあるような……。
千本木 いい例え! もうこれをキャッチコピーにしましょう!
花守 やったー(笑)。だからこそ焦がれてしまうんだろうなと思います。
花守 ハッとさせられるセリフがたくさんありました。第十一幕で愛ちゃんとさらさが役に寄り添おうとするところも、最終話で杉本さんが「私に足りなかったものはなんですか」と尋ねるところも、実際に考えることがありますから。改めて気が引き締まるところがあって、とても楽しかったです。
千本木 キャラクターたちとリンクするところが多いですし、彼女たちが何に悩んでいるかもわかるので、その想いが切実に伝わってきますね。私個人としては、自分の中のティボルトとかジュリエットってなんだろうって、改めて考えるきっかけにもなりました。
花守 役を演じるって、トラウマのような思い出したくないことでも掘り起こして、それを今の自分に重ねて、また新しい技を得ていくことだと思うんです。私たちも延々と自分に向き合い続ける覚悟を問われているようで、演じていて痛みを感じることもたくさんありました。
千本木 さらさたちが痛い思いをしながら自分を掘り起こし、自分自身というものを認めていく作業をしてきた全十三幕だったのかなと思います。