かげきしょうじょ!!

かげきしょうじょ!!リレー連載 第6回 [音楽・斉藤恒芳 × OPアーティスト・ヨシダタクミ(saji)]

――お二人は、原作はご存じだったんですか?

ヨシダ 昔からマンガが好きで少女マンガもいろいろと読んでいるので、「かげきしょうじょ!!」も以前からタイトルは存じ上げていました。実際に読みはじめたのは、オープニングテーマを担当させていただけるというお話を伺ったタイミングでしたが……めちゃくちゃ面白くて、すっかりファンになってしまいました。アニメも絶対に素晴らしいものになると思ったので、「気合い入れて書きます!」と言って頑張りました。

斉藤 ずいぶん前から知っていました。僕はアニメの音楽と舞台の音楽を両方やっていて、宝塚歌劇の音楽も作っているので、タカラジェンヌが使う食堂にもよく足を運ぶんです。そこに宝塚歌劇の原作になったマンガが揃っていて、「ベルサイユのばら」や「はいからさんが通る」と並んで「かげきしょうじょ!!」があったんです。ご飯を食べるときに読んでいました。

――以前、里美 星役の七海ひろきさんにインタビューしたときも、「同期生の間でも話題」になっていたとおっしゃっていました。

斉藤 そうでしょうね。きっとタカラジェンヌの皆さんも読んでいると思います。

――原作の特にどんなところに惹かれましたか?

ヨシダ からっとした読後感ですね。少女マンガって心の闇や葛藤がフィーチャーされ、それを引き金に嫉妬し合ったり、ひと悶着起こしたりという勝手なイメージがあったんですが、「かげきしょうじょ!!」は葛藤や嫉妬が描かれても、さらさの行動が痛快でどこか青春スポ根作品のように読めたんです。あまり男性とか女性とか気にせずに楽しめる作品だなと感じました。

斉藤 僕は「SWAN」や「ガラスの仮面」「愛のアランフェス」「舞姫 テレプシコーラ」のようなバックステージもののマンガが大好きなので、同じ位置づけで「かげきしょうじょ!!」を読んでいました。自分がバックステージの人間なので、共感できる部分がとても多いんです。その一方で、覗いてはいけないものを覗いているような面白さもあって……。

――というと?

斉藤 モチーフになっている宝塚音楽学校は、我々からすれば秘密の花園なんです。僕は宝塚音楽学校では先生と呼ばれる身ですが、音楽家や脚本家が先生と呼ばれる一方で、タカラジェンヌは定年の60歳までずっと生徒として扱われます。先生と生徒の関係が何十年も続くということは、近い場所にいても絶対に触れられない部分というものがあるんです。「かげきしょうじょ!!」は、それが絶妙に明かされている感じがして面白いですね。実際はわからないけれど、そうかもしれないと思えるリアリティが感じられました。

――では、音楽制作についても伺えればと思います。まずオープニングテーマ「星のオーケストラ」について、ヨシダさんはどのようなイメージで制作されていったのでしょうか?

ヨシダ 僕は宝塚歌劇を拝見したことがなく、歌劇団というとあるゲームの歌劇団しか思い浮かばなくて(笑)。プロデューサーに「そういう雰囲気に寄せたほうがいいですか?」と方向性を確認したら、「ヨシダさんの思うように書いてみて」と言われました。僕はバンドの人間なので、そういうことなら僕なりの応援歌を書こうと思ったんです。最初に曲ができた時は少し爽やかすぎるかなと思いましたが、それが一発で採用されました。ただ、斉藤さんが書かれたエンディングテーマがオープニングテーマとは全然違う方向性だったので、「本当にギターを使ってよかったのかな」なんて思ってしまって(笑)、ちょっと怖かったです。

斉藤 ははは(笑)。でも、オープニングテーマは爽やかなほうがいいんですよ。

ヨシダ ありがとうございます。実は、イントロには音楽学校の校歌のような要素が少しだけ入っているんです。

斉藤 あれはすぐにわかりました。

ヨシダ 本当ですか! 作中でも校歌が印象的に使われていることもあり、自分なりに校歌っぽさをチャイム音で表現してみました。

――「応援歌」というのが、一つのキーワードだったんですね。

ヨシダ 僕が音楽でプロになりたいと思ったのが、中学校3年生の頃。ちょうどさらさたちと同じ年齢の頃に音楽の道を志したんです。「星のオーケストラ」はその頃の自分や今その世代の人たちに向けて、背中を押してあげたい、青春時代を一緒に歩きたいという気持ちを込めて書きました。

斉藤 作品の世界観とぴったりですよね。「輝く星になれ!!」なんてまさにその通り。宝塚音楽学校って、みんなが「トップを目指す人」なんです。40人入学したら「トップを目指す人」もいれば、「入っただけで幸せな人」もいるだろうと普通は思うんですけど、そうではない。その強い気持ちが歌詞にも表れていて、そうだよなと納得しました。

ヨシダ ありがとうございます。その突き詰め方がすごいですよね。安道先生も言っていましたけど、みんな卒業後はプロになるわけで、学生のときからその覚悟をしなければいけない。僕も音楽の学校に通っていましたけど、プロを志願して入学しても専業になる人って1割もいないんです。全員がプロになるというのは、その分、プロ意識、ライバル意識もすごいでしょうし、それを10代で覚悟しなければいけないことに驚かされました。

――斉藤さんはどのようなイメージで劇伴を制作されていったのでしょうか?

斉藤 学校なのでみんなが同じ制服を着ますし、ダンスレッスンのときは黒いレオタードを着ることになるので、まずは華やかな音楽で映像を彩ろうと考えました。その後、諏訪(豊)プロデューサーから、「実写風の音楽にしてほしい」と言われたんです。キラキラした音楽というよりは、生っぽい音楽にしたかったんでしょうね。それを上手くすり合わせつつ、音楽学校はどこかの教室から常にピアノの音が聞こえてくるので、ピアノを中心にして作っていくことにしました。

――「実写風の音楽」について、もう少し詳しく聞かせていただけますか?

斉藤 アニメと実写の音楽で明確に違うのは、音楽の派手さです。アニメは実際の人間の顔よりも平面的なので、表情を少しでも豊かにしようと音楽も派手めにするんです。一方で、実写は動きが止まっていても表情が何かを物語ってくれるので、それほど音楽で盛り上げる必要はない。派手な音楽をつけてしまうと大げさな印象になってしまうんです。

ヨシダ 以前、斉藤さんが舞台音楽について語ったインタビュー映像を拝見したんです。CD音源のようなクオリティで音楽を作ってしまうと、逆に音楽が目立ちすぎるからよくないということをおっしゃっていたと思うんですが、まさにそういうことですよね?

斉藤 その通りです。劇場の大きさにもよりますが、舞台では音楽が物語る必要はあまりないんです。きらびやかな衣装と派手なセットがあるので、音楽が派手だと鬱陶しくなってしまう。衣装やセットに「+1」をするのではなく、トータルで「1」になるのを目指すのが舞台を含めた実写の音楽なんです。

ヨシダ それが驚いたところですね。僕らはボーカルとアンサンブルのバランスはもちろん考えますけど、映像や衣装、セットとのバランスを考えながら音楽を作るなんて考えたことがなかったので。ただただすごいと思いました。

斉藤 今回は生楽器を使うにしても弦楽器から管楽器、打楽器がみんな鳴り響くと賑やかになりすぎるので、編成も含めてなるべく抑えるようにしました。

――また、エンディングテーマも斉藤さんが担当されていますが、こちらはどんな発注があったのでしょうか?

斉藤 実はもともとエンディング用の曲ではなく、劇伴用に作ったものだったんです。

ヨシダ え~!(笑)

諏訪豊(プロデューサー) 補足させていただくと、もともとエンディングテーマもお願いしたいと考えていたんですが、いただいた劇伴の中にとても素敵なものがあったので、「エンディングテーマにしてもよいでしょうか」と伺って、使用させていただいたという経緯です。

ヨシダ エンディングテーマで驚いたのが、歌うキャラクターによって歌詞のテーマが変わるところですね。キャラクターソングで歌い分けが変わることはよくありますけど、原曲は一緒なのに歌詞のテーマが変わっていくのが面白いなと思って。

斉藤 本当に大変な作業でした(笑)。最初に作った「星の旅人」は、普通に曲を作るのと一緒でメロディと歌詞がぴったりハマったんですが、2曲目、3曲目は世界観が変わり、改めてフィットする言葉を探らないといけないので。フィットする言葉を見つけても結局、最初に書いた「星の旅人」に似てしまう……ということが何度もありました。

ヨシダ それぞれのキャラクターの内面とも繋がるわけですから、慎重に考えないといけないですよね。

斉藤 そういう意味では、歌詞というよりセリフを考えるような感覚ですね。本当にミュージカルを作っているみたいでした。

――それぞれの楽曲は卒業したさらさたちが舞台に立つイメージで制作されたと伺いました。

斉藤 そうです。この先、誰が男役、女役になるかはわかりませんが、成長した彼女たちが舞台に立って歌う姿をイメージしています。レコーディングでも、例えばさらさは劇中で話しているトーンよりも少し低めの声で、渋めな感情を意識して歌っていただきました。

――キャストさんたちにレコーディングの感想を伺うと、皆さん「難しかった」とおっしゃっていました。

斉藤 こういった歌唱に慣れていないとそうなりますよね(笑)。でも、皆さん本当に吸収力が高くて驚きました。現場でボイストレーニングのように「横隔膜を下げてください」とか、「ここはスポットライトに手を伸ばしながら」とか、具体的なイメージを伝えるとすぐに理解してくださるんです。

ヨシダ 確かに皆さんお芝居のプロですし、イメージをはっきり伝えたほうがいいのかもしれないですね。

――少し「かげきしょうじょ!!」とは離れますが、この作品に限らず、お二人が作品に関係する音楽を制作される際、やはり第一に考えるのは原作や脚本にいかに寄せていくか、なのでしょうか?

ヨシダ 原作は絶対に読みますね。基本的に、曲を書く前に原作を好きになりたいタイプなので。その上で、物語の外の人間として俯瞰して書くのか、あるいは物語の中に自分もいるイメージで書くのかを考えます。そこから物語を読み込んで、キャラクターの核になるワードや原作者の方が大事にされてそうなワードを探ることが多いです。

斉藤 原作や脚本のほかには絵コンテや美術設定を参考にすることもあります。特に参考になるのが、作品全体の世界観がわかるような美術関連の資料ですね。それをコンピューターの前に貼ってその世界にはどんな音楽が合うのか、どんな音が鳴っているかを想像することが多いです。

ヨシダ あるアニメで劇中歌を書いて自分で歌ったことがあるんです。そのときは僕も絵コンテを見ながら書いたんですが、自分の音楽が本当に絵とマッチするか悩んでしまって。絵に寄せたとしてもそれが本当に合っているのかどうか、経験がないからわからないんですよ。結果、自分がいいと思ったものを作ることにしたんですが、もし斉藤さんが絵コンテや美術を見て作られたら、また違うものになったんだろうなと思うと、すごく奥深いなと感じます。

斉藤 劇中歌は難しいですよ。一番難しいかもしれない(笑)。効果的なときもあれば、やっぱり映像の邪魔になってしまうこともあるので。

――今回、斉藤さんは劇中歌も多数作られていますよね。

斉藤 そうですね。山田彩子が第5話で歌った「My Sunset」は、絵コンテとカッティング素材をいただいて、そこにタイミングを合わせながら音楽を作っていきました。

――映像に合わせて音楽を作る、いわゆるフィルムスコアリングですね。

斉藤 そうです。前奏が始まったところから映像が終わるところまでしっかり秒数を計って作りました。セリフと被らないようにしたり、映像と合いすぎないように音をずらしたり。

ヨシダ 映像と音をずらすんですか?

斉藤 例えば、泣いている登場人物が笑う瞬間があったとして、その瞬間にぴったり合わせて音楽が変わるのはちょっと違和感があるんです。僕はそうならないようにわずかなタメを入れたり、その前に流れている音楽を少し残したりしています。

ヨシダ バンドってブレイク(メロディやリズムを休止させること)やフィルイン(一定のビートを繰り返し、即興を入れて変化をつけること。ドラムのフィルインをきっかけにほかの楽器がインすることが多い)といった、「よーい、ドン!」の世界なので、その感覚は新鮮です。でも確かにそのほうが抑揚がつくし、情緒がありますね。

斉藤 まさに山田が歌い出すシーンはタメを入れて、彼女が輝き出す瞬間を意識しました。

――いろいろと興味深いお話、ありがとうございました!

ヨシダ いろいろ聞かせていただいて楽しかったです。

斉藤 こちらこそ。ちなみに歌を作るときは打ち込みから? それともギターで……(と、ここからは制作環境などの話で盛り上がりました!)

コラム

皆さんのお仕事(漫画家、監督、音楽、声優など)における「トップスターの条件」を教えてください。

斉藤

トップを目指すことではなく、好きなことをずっと好きでいることだと思います。

ヨシダ

僕も斉藤さんの考えに近くて、ずっと現役でいる方はただただ音楽が好きという方が多いんです。
ある超人気アーティストのレコーディングを見たことがあるんですが、自分から何度も歌い直すんですよ。
メンバーもスタッフもみんなOK出しているのに(笑)。
本当に音楽が好きなんだなと思いましたし、
この方のようにいつまでも音楽にドキドキやワクワクを感じたい人がトップになるんだろうなと思いました。

PAGE TOP