かげきしょうじょ!!

かげきしょうじょ!!リレー連載 第2回 [監督 米田和弘 × 里美 星役 七海ひろき]

――こちらの記事が公開されている頃には第一幕が放送されています。監督は、第一幕の手応えや感触はいかがでしたか?

米田 ロケハンの成果が出たかなと思います。浅草の街並みやモチーフとなっている宝塚の風景もそうですし、ほかにも山手線に乗った愛が恵比寿で降りるまでの一連の流れは動画を回して車窓からの景色を再現するようにしたんです。

七海 私も先に少しだけ拝見したのですが、大劇場の景色がそのままですよね。鳥肌が立つくらい素晴らしかったです。

米田 ありがとうございます。アバンタイトルに出てくる大劇場もミラーボールの光や大階段のライティングにこだわりました。「かげきしょうじょ!!」をきっかけに宝塚が大好きになったので、自分の好きを込めるようにしたんです。アニメファンだけではなく、宝塚ファンの方にもこの作品から宝塚愛を感じ取っていただきたい。そんな思いがありました。

――宝塚歌劇団に在団されていた七海さんは、この作品にどんな印象をお持ちでしたか?

七海 私が在団していた頃に連載が始まり、同期生の間でも話題になっていて、(宝塚)音楽学校時代の気持ちが甦るような作品だなと思いました。もちろん青春がテーマなのでどの方でも楽しめる普遍的な面白さがあるのですが、私にとっては初心に返らせてくれるような熱さがあり、気持ちがわかるからこそ感動しました。

米田 ただキラキラしているだけじゃないところがいいですよね。アニメでは今後明かされていきますが、みんな背負っているものが大きいんです。時にはくじけそうになりながらも前へ進んでいこうとする。その人間くささがどのキャラクターにもあって、僕はそういうところに惹かれました。

七海 確かに、ドラマがあるところがいいなと思います。先日、原作の斉木(久美子)先生にお会いしたのですが、その際におっしゃっていたんです。この作品は少女が挫折をして、そこからどう成長していくかが重要なんです、と。お話を伺って頷くばかりでした。

米田 みんな選び抜かれた少女ではあるけれど、それぞれがコンプレックスや劣等感を抱えているんですよね。それが、普通は見ることができない音楽学校の生徒たちの等身大の姿なのかもしれない……。そう思わせてくれるのがこの作品の魅力であり、アニメでしっかり表現したい部分の一つでした。

――先ほど、七海さんは在団中に読まれたとおっしゃっていましたが、やはり「音楽学校あるある」みたいなものもあったんですか?

七海 ありました! 特に同期生がいろいろな行事を経て、少しずつ距離を縮めていく過程は作品そのままです。第一幕の段階だとまだよそよそしい雰囲気ですが、その関係性がどういうふうに変わっていくのか、楽しみにしていただきたいです。

――星野と杉本はライバル心を燃やしていましたが、そういう学生もいるのでしょうか?

七海 「私たち、ライバルね」と、口に出して言う子はさすがにいませんでした(笑)。でも、みんな舞台に立ちたくて入学してくるのは確かなので、仲はいいけれど常にライバル意識は持っていたと思います。それによって切磋琢磨できるのも音楽学校のいいところです。

米田 そういった音楽学校や学生同士の空気感を知るために、岸本望さんにいろいろとヒアリングさせていただいたんです。岸本さんは宝塚歌劇団の91期生で今は声優としても活躍され、この作品にも出演なさっています。彼女に掃除のことや上下関係のことなどをたくさん伺いました。

七海 どんなお話をされていました?

米田 掃除は講堂担当だったらしく、代々受け継がれている赤いバケツを使っていたとおっしゃっていました。ちりとりなどもかなり年季が入っていて、一つの物をずっと大切に使い続けるという、そういう伝統があったと。劇中の掃除シーンでは、それを参考にしたバケツが出てくる予定です。

七海 すごい! 細かく再現されているんですね。講堂担当だった方が見たら、「これは……!」と思うかもしれない(笑)。

――アニメ化するにあたっては、そういった再現性を大事にされたのでしょうか?

米田 再現性も大事ですが、それ以上に上澄みだけを汲み取らないことを大事にしました。ヒアリングして上下関係が厳しいこともわかりましたし、第一幕でも安道が「悪夢のようなヒエラルキー社会の始まり」と言っていますが、そこだけ汲み取って面白おかしく取り上げるのは違うと思ったんです。

七海 確かに音楽学校では上下関係の大切さをたくさん教えていただきました。ですが、それは舞台に立つ者として感情をコントロールするためであり、強いメンタルを持つためなので、今思い返してみても意味のある関係性だったと思います。

米田 ですから厳しさを描いたとしても、その本来の目的はしっかり描くようにしています。

七海 監督の作品愛、宝塚愛を強く感じます!

米田 でも、舞台で輝くためには相当な努力が必要なのだなと、ヒアリングをしてはっきりと感じさせられました。遠方から来た方はその一回しか見られないかもしれない。だから、プロとして輝く姿を焼き付けるための努力をするというのですが、それは並々ならぬものだと思います。

七海 今、監督が上級生に見えました。初舞台のときに、まさにそういった精神を上級生の方に教えていただいたことがあります。「今日だけしか見られない方がいらっしゃるから、責任をもって舞台に立ちなさい」と。

米田 プロフェッショナルですよね。僕なんてお客さんのために仕事をするという感覚や、お客さんの反応が力になるなんて感覚、若いときには実感できませんでしたから。ある作品をイベントで上映したときに、泣いて喜ぶファンの方を見て初めて「この人たちのためなら死ねる」と思えたんです。そこで一生この仕事を自分の生業にしていこうと覚悟が決まりました。

七海 私も自分のためにという意識が強くて、実はお客様のために舞台に立とうと考えるようになったのが少し遅かったんです。その頃を「イケイケ時代」と呼んでいますが(笑)、ちょっとクールな態度の方がかっこいいのかなと勘違いしていた時代でもありました。

米田 ははは(笑)。

七海 でも、とても難しい舞台があったときに、お客様が「七海さんが舞台に立って、笑っているだけでいいんです」と言ってくださったんです。もう、涙が溢れました。そこからお客様への感謝を忘れてはいけないと思うようになり、自分が舞台に立つ意味……「お客様に楽しんでいただくこと」を常に考えるようになりました。

――では、七海さん演じる里美 星についても伺えればと思います。七海さんからご覧になってどんな女性ですか?

七海 里美 星は冬組の次期・男役トップスターで、どんな役でも暗くなる「究極のヤンデレ」と呼ばれています。ですが魅力はなんといっても、かっこいい男役なのに実は乙女チックでかわいらしいところ。私もそのギャップに心をくすぐられました。

米田 彼女を描く上で重要だと思ったのは、ある人物への想いですね。それがふいに表れる場面がこの先出てくるのですが、それを七海さんがナチュラルに演じてくださって、「よしよし!」と。ちょっと偉そうですが(笑)。

七海 いえいえ! そう言っていただけて嬉しいです。かなり緊張していたので……。

米田 本当ですか? 星の相方となる娘役トップを演じるキャストさんが、七海さんのお芝居を聞いて完全に乙女になっていましたよ。

七海 全然気づきませんでした(笑)。でも、ありがたい限りです。

――星を演じる上で、どんな役作りをされましたか?

七海 ナチュラルな雰囲気を大事にしてほしいと伺ったので、役を作り込むというよりは、自然なお芝居を心がけるようにしました。もちろん私自身とは別なので、里美 星という役のイメージを大事にしつつですが。その上で、キラキラした部分も大事にしながら演じました。

米田 いい声優さんというのは、皆さん勘がいいんです。音響監督を通して「こうしてほしい」とディレクションしたときの修正能力が高いと言いますか。七海さんも例に漏れず勘のいい方だなと思いました。そもそも、そんなにリテイクがなかった気がします。

七海 そうだったかもしれません。でも、まだまだマイク前のお芝居は難しいなと感じながらのアフレコでした。

――Blu-ray&DVD第2巻(9月29日リリース)には、スピンオフドラマの特典CDがつくそうですね。こちらでは星の学生時代が描かれると伺いました。

七海 そうなんです。男役になる決意をする前の里美 星なので、アニメ本編とは雰囲気がまた違っています。恋心のようなものも描かれるので、ちゃんとかわいく表現できるかなとちょっとドキドキしつつ、しっかり練習して演じました。

――ドラマCDでは歌唱もされたそうですね。

七海 はい。ドラマCDでは女学生時代の星がアカペラで歌うという形でした。オケが入ったものはサントラCD(※詳細後日発表)に収録されるそうです。サントラCDのほうはトップスターとしての歌唱で、実はキーが変わっています。

――楽しみにしております。では本作の主人公であるさらさと愛について、その印象や演出のポイントなどを聞かせていただけますか?

米田 僕は人見知りなこともあって、さらさのようなグイグイくるタイプの子が身近にいたら結構ペースが乱されるんじゃないかなと思います(笑)。演出上でも、あまりにグイグイいきすぎて視聴者の方に煩わしく思われないように、ちゃんとかわいく見えるようなバランスを心がけました。

七海 さらさのように生きられたらいいなと思いながら見ています。私は先生にハキハキと質問できるタイプではなかったので、堂々としているところはすごいなと思いますし、この天真爛漫さが魅力なんだなと感じました。愛はクールに見えるけれど、悩みながらも前に進もうとする熱い部分があって、そこが私にはかわいく見えます。お互いに全然違う魅力があるからこそ、ぶつかり合い、惹かれ合うのかなと。二人とも考え方がハッキリしているところも素敵だなと思います。

米田 愛に関しては、最初のシナリオ打ち合わせで斉木先生から要望をいただいたんです。「愛はとても重い過去を背負っています。そこを逃げずに描いてください」と。確かに、彼女の過去をどう描くかとても悩んでいたんです。でも、愛の人格を形成した重要な出来事なので、変に逃げてオブラートに包むより先生の想いを尊重しようと。とても力強い後押しをいただきました。

――冒頭でもおっしゃっていましたが、監督はこの作品をきっかけに宝塚の大ファンになったそうですね。改めて、どんなところに惹かれたのでしょうか?

米田 きらびやかな世界、夢の世界に連れて行ってもらえるところですね。しかも、今回一緒に仕事をする方が七海ひろきさんという星組にいらした方。それを知ってからの緊張感といったら(笑)。最初に見たのも星組の公演だったんです。今ではBlu-rayをヘビーローテーションして、気づけばキャトルレーヴ(宝塚歌劇のグッズショップ)の袋が増えています。

七海 宝塚出身の者として、とても嬉しいです。

米田 実際に現地で見ると、帰ってくるときの新幹線が心地いいんです。なんで今まで知らなかったんだろうって思うくらい。でも、これで老後の夢ができました。

七海 どんな夢なんですか?

米田 宝塚に住んで劇場に毎朝並び、当日券を買って観劇する。それを100歳まで続けて、100歳になったときにタカラジェンヌさんと一緒に写真を撮ってもらい、新聞に載るんです。それが夢。

七海 素敵です! ちょっと感動しました……。しかも、「かげきしょうじょ!!」がきっかけというのが、運命的なものを感じます。ぜひ実現してください!

米田 頑張ります(笑)。

コラム

皆さんのお仕事(漫画家、監督、音楽、声優など)における「トップスターの条件」を教えてください。

七海

一つは、諦めずに挑戦し続けること。
ひと仕事終えたからといってそこに留まるのではなく、
次のステージに行くために新しいものに挑戦する姿勢が大事なのではないかと思います。
もう一つは、見てくださる方へ感謝の気持ちを忘れないことです。

米田

自分を認めてもらいたいという気持ちが10年前ぐらいまではありましたが、
才能のある方たちと仕事をして、自分は天才ではなく凡人であるとやっと気づいたんです(笑)。
凡人なりに考えると、請けた仕事をまっとうするという「責任」になるのかなと。
それは自分のためだけではなく、仕事仲間、視聴者といった誰かのために仕事をすることであり、
トップに立つべきなのはそこに幸せを感じられる人なのだと思います。

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