かげきしょうじょ!!

かげきしょうじょ!!リレー連載 第1回 [原作 斉木久美子 × 渡辺さらさ役 千本木彩花 × 奈良田 愛役 花守ゆみり] かげきしょうじょ!!リレー連載 第1回 [原作 斉木久美子 × 渡辺さらさ役 千本木彩花 × 奈良田 愛役 花守ゆみり]

――斉木先生は、アニメ化が決定したときの心境を覚えていますか?

斉木 担当編集の滝澤さんから電話がありました。滝澤さんはとても熱い方なのですが喋り方は淡々としていて、アニメ化についてもさらっと言われたので、「やった!」というよりは「え?」って驚きのほうが大きかったですね。しかも、「アニメ化したら引退する」とまで言っていたので……。

千本木花守 ええ~っ!

斉木 冗談半分で「アニメ化しないかな~」って、よく話していたんです。それこそ、『ジャンプ改』(現在は休刊)で『かげきしょうじょ!』(『かげきしょうじょ!! シーズンゼロ』)の連載がスタートしたときは、「もしヒットしてアニメ化したら、もう思い残すことはないので引退します!」って(笑)。

千本木 ダメです、ダメです!

斉木 そしたら本当に実現してしまって。絶対にアニメ化はないだろうなと思っていたので、びっくりしました。今でもまだ壮大なドッキリなのかなって不安になります……。

花守 大丈夫です、もうアフレコも終わっているので!

――ははは(笑)。ちなみに、千本木さんと花守さんは原作を読んだとき、どんな感想をお持ちになりましたか?

千本木 実は、ある作品の原作者さんにオススメされたマンガだったんです。めちゃくちゃ面白いから絶対に読んでほしい、と。画もきれいでお話も私好みだったので、お仕事とはまったく関係なく、ファンとしてずっと追いかけていたんです。そしたらオーディションの話をいただいたので、心がざわつきました。

花守 私はお恥ずかしながら、オーディションの際に読ませていただいたのですが、これは絶対に受けたいと思って。「愛ちゃんを受けたいです!」って夜中にラブコールを送りました。それぐらい愛ちゃんに一目惚れしてしまったんです。色鮮やかできれいな世界の中に光と陰が同時にあり、愛ちゃんはその陰の部分を背負って、輝く舞台に立とうとしている……。そこにグッときて、泣きながら原作を読みました。

斉木 お二人にそう言っていただけて、うれしいです。ありがとうございます。

――では、さらさについて彼女の魅力をどんなところに感じましたか?

千本木 明るくてまっすぐなので、よく「主人公タイプ」と言われますが、意外とそれだけじゃないところがさらさの魅力です。生い立ちや過去を知っていくと、彼女にも苦しみや悩みがあって、ただキラキラしているだけではないんです。演じるときも明るさだけではなく、彼女が感じていること、考えていることを常に意識するようにしています。

花守 さらさって一見すると、「清く正しく美しく」をいちばん体現しているように見えるんです。でも、挫折があった上での輝きなんですよね。

千本木 しかも本人は挫折と思っていなくて、いろいろな事情があっても環境のせいにしないんです。そういう環境かもしれないけれど、自分は自分……そう考えられるところがすごいなと。誰かを見るときに色眼鏡で見ないところもさらさらしいところだと思います。

斉木 まさにお二人がおっしゃったことがすべてですね。さらさは子どもの頃に一度挫折を経験して、いろいろなトラウマを抱えています。精神的に大人になるのが早かった子でもあるので、その意味では天真爛漫な部分とのギャップが大きい子ですね。

千本木 過去を背負った上での明るさが魅力ですよね。

斉木 100期生は何かを諦めてから再スタートした子が多いんです。挫折はものすごい力になるんですが、特にさらさは「トップになる」と言い切れる心の強さがあります。もしかすると、現実の音楽学校ではそう簡単に言葉にしてはいけない言葉かもしれません。でも、さらさは入学早々に言えてしまう。その揺るぎない心が魅力ですね。

――では、愛についてはいかがでしょうか。

花守 愛の視点でお話が進んで行く中で、どうして彼女はここまで心を閉ざすんだろうって思ったんです。最初はさらさを突き放しますし、どこか冷たさを感じるところもあって。でも、その過去を知っていくと納得せざるを得ないんです。愛の過去を知り、私も愛と一緒に奈落に落ちていく感覚がありました。

千本木 愛ちゃんの過去は衝撃的だよね……。

花守 「え、嘘でしょ」と思って、泣きました。その衝撃が大きかったからこそ、彼女が幸せになっていく過程を絶対に見たいと思いましたし、泣いた分だけ愛を演じたいという気持ちも強くなって。どんどん引き込まれていきました。

斉木 愛は幼児期に悲しい事件があって、そこで心を閉ざしてしまいました。さらさと出会い、ようやくその扉が開くのか……というのが物語のポイントなので、その成長を見守っていただけたら嬉しいですね。今は、カルガモ親子のいちばんうしろで一生懸命ピヨピヨピヨピヨとくっついていくような状態です(笑)。

花守 応援したくなる子ですよね。

千本木 さらさはある程度、自分の道を決めて前に進んできて紅華にいますけど、愛はまさに今進んでいる最中の子なので、すごく応援したくなります。視聴者の方でも、何か一歩踏み出したいと思っている人にとっては共感できるキャラクターなるのではないかなと。あとはぜひ、さらさとの関係がどうなっていくのかにも注目していただけたら嬉しいです。

――斉木先生は、アフレコにはご参加されているのですか?

斉木 アフレコスタジオで見学させていただいたのは1回きりで、基本的にはスカイプで音声だけ聞かせていただいています。お二人と初対面のときもスカイプ越しで……。あのときは「わぁ~!!」みたいな変なテンションですみませんでした!

千本木 全然、そんなことなかったですよ! むしろ緊張がほぐれました。

斉木 すべてが初めての体験だったもので……。でも、特殊な条件下でのアフレコなんですよね? いつもと勝手が違って大変なんじゃないかなって。

千本木 そうですね。少人数の収録なので、やはり今までとは少し勝手が違います。さらさは周囲に影響されながら周囲に影響を与えていくキャラクターなので、誰かの言葉に感化されたり、誰かに言葉を投げかけたりする場面で相手がいないと、想像頼みになることもあって。それが大変ではあります。その分、さらさの感情をより深く理解して臨みますし、まわりのキャストさんも限られた人数の中でいいものを作ろうと努力されているので、できあがったものはいつもと変わらないと思います。

花守 関係性がすてきな作品ですし、愛も周囲の影響を強く受ける子なので、リアルタイムで掛け合いができないのは残念でした。それでも、アフレコ前に他の方が収録された分を聞かせていただいたり、なるべくさらさとは一緒に録らせていただいたりしているので、可能な範囲で最善の形にはできたと思います。本当に、スタッフの皆さんには感謝しかないです。

――さらさと愛は一緒にアフレコすることが多かったんですか?

花守 一緒が多いよね?

千本木 そうですね。あとは(中山)リサ先輩とか。

花守 愛ちゃんにとって重要なシーンはさらさと一緒の場面が多かったので、大事なところを一緒にできるたびに、「ここは押さえられた!」ってほっとしていました。

――先生のほうから何かお芝居に関するリクエストはありましたか?

斉木 まったくありませんでした。プロの方、現場の方にお任せしています。

花守 音響監督さんから、何かこうしてくださいとディレクションをいただくこともあまりなかった気がします。

千本木 「奈良田」のイントネーションくらい?

花守 奈良田問題! あった~(笑)。

斉木 実は、私は「奈良田(平板)」派だったんですよ。だから、「な」にアクセントがあると知って、びっくりしました。

花守 わかります!(笑) オーディションのときに平板で「奈良田愛です」って発音したら、音響監督さんに「那由他(なゆた)のイントネーションです」と何度か直していただくことがありました。

千本木 先生も「奈良田(平板)」で読んでいたのはびっくりです。

斉木 でも、プロの方がそうおっしゃるなら、「な」にアクセントがあるんだろうなと。私は神奈川出身ですが母が静岡なので、発音にあまり自信がなくて(笑)。

花守 大変そうなのは野島 聖役の花澤(香菜)さんですよね。いちばん「奈良田さん」って言う機会があるので、よく名前を確認し合っていました

――斉木先生は、オーディションはご覧になったんですか?

斉木 さらさだけ現場を見学させていただいて、他は決まった方の声をあとから確認させていただいた形ですね。千本木さんの演技は直接拝見しました。

千本木 そうだったんですね! 実は最初は星野 薫役で受けていたんです。星野だけのつもりだったら、さらさと愛もお願いしますとなって……。結果、さらさ役をいただいたので、とてもびっくりました。

斉木 さらさは全員にやっていただいたと伺いました。確かにさらさは難しい役ですから。千本木さんの演技はよく覚えています。これは嫌われないさらさだと思って。

千本木 嬉しい!

斉木 愛もそうですが、同性に嫌われないキャラクターにしたいという思いがあったんです。千本木さんのさらさは、かわいいけれど現実離れしすぎていない絶妙なバランスでした。愛は決まったあとに聞かせていただいて、すごくぴったりだなと思いました。それで花守さんってどんな作品に出ているんだろうって調べたのですが、そうしたら別の作品でも“愛ちゃん”を演じられていて。

花守 そうなんです(笑)。ポーカーフェイスな役が続くなと思ったんですが、こちらの愛ちゃんはポーカーフェイスに至るまでにかなり深刻な理由があったので、それをしっかり意識しつつ、彼女の殻を少しずつ破っていって止まっていた時間を動かしていこうと考えました。ちょっとずつ彩りを加えていくようなイメージで演じています。

斉木 オーディションは歌もありましたよね?

千本木 ありました。しかも、課題曲は実際に宝塚音楽学校の試験でも使われた曲と聞いて、それがすごく難しかったですね。

斉木 でも、皆さんお上手でさすがだなと思いました。

――歌といえば、千本木さんと花守さんはエンディングテーマ『星の旅人』を歌っています。こちらの楽曲はいかがでしたか?

千本木 さらさたちが舞台に立つ瞬間が想像できるすてきな曲です。でも、これを自分が歌うのかという不安もありました。とにかくハードルの高い曲で……。

花守 わかる~! かっこいい、でもどうやって歌えばいいんだろうって(笑)。

千本木 二人でざわざわしたよね。「聴いた? あの曲、歌うらしいよ」って。

花守 「ハモり多いよね……!?」って、ドキドキしていました。

斉木 でも、声優さんって歌が当たり前になっていますよね? それでもやっぱり緊張するものなんですか?

花守 『星の旅人』はキャラクターソングという形ではあるんですけど、舞台で歌っている曲という体なので、少し感覚が違いました。

千本木 将来、さらさたちが舞台に立ったらこういう曲を歌うんじゃないかというイメージだそうです。

斉木 ぜひ、キャストの皆さんが舞台で歌う姿を見てみたいです!

花守 それ、絶対に緊張しちゃいますよ!

――実際に歌ってみて、難しかったですか?

千本木 難しくはありましたけど、音楽の斉藤(恒芳)さんが「ここはもうちょっと彩りを加えましょう」と、細かくディレクションしてくださったので、安心してレコーディングに挑めました。

花守 キャラクターについても深く理解されている方で、「彼女のここが魅力だから、それを生かして、こう歌いましょう」とおっしゃってくれるんです。こちらの意見も聞いてくださって、とても楽しいレコーディングになりました。

斉木 斉藤さんは実際に宝塚歌劇団の楽曲も作られている方なんですよね?

花守 そうなんです。その方が作ってくださった曲なので、私たちも歌唱力を試されているような感覚でした。

――では最後に、放送を楽しみにしている方へ、皆さんからメッセージをいただけましたら。

花守 原作読者の皆さんの中には、それぞれのキラキラしたイメージがあると思います。そのキラキラをどうすれば表現できるか。この作品に携わるすべての人が考えに考え抜いてアニメを制作していますので、きっと喜んでいただける内容になると思います。アニメからご覧になる方は、キラキラ輝く部分と同時に陰の部分にも注目していただきたいです。

千本木 原作に魅せられたスタッフ、キャストが集まった現場だと思います。第1話のアフレコでスタッフの皆さんがおっしゃったんです、「この作品が大好きだから、大切に、丁寧にアニメ化したい」と。実際に、アフレコをしていて丁寧に作られているのがひしひしと伝わりましたし、私自身も楽しく演じられているので、そういった思いが皆さんに届いたらいいなと思います。よろしくお願いします!

斉木 制作スタッフの皆さま、そして主役のお二人からの愛を感じて、それだけで胸がいっぱいです。たくさんの愛がつまったこのアニメを、皆さまにも愛していただけたら幸いです。

コラム

皆さんのお仕事(漫画家、監督、音楽、声優など)における「トップスターの条件」を教えてください。

千本木

決めきらないこと。「こうだからトップスター」というのはないような気がしていて。
いろいろな状況があって、いろいろな人がいて、その中で「自分はこうだ」と決めつけずに、ずっと自問自答を繰り返せる人でありたいですね。
それが許されるのも、この世界のいいところだと思うので。

花守

考え続けられる人。「できた」と思った瞬間、そこで成長できなくなる気がするんです。
まだ足りないところがあると自覚することって、伸びしろを理解することでもありますし、
自分を見つめ続けて成長していける人がこの世界にいられる人なんだと思います。

斉木

マンガ家がトップスターになることよりも、キャラクターが愛されることのほうが大事だと思うので、それを大切にしていきたいです。

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